〔宗教法人売買〕仕組みとおススメできないわけとは?

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宗教法人売買とは一体…

宗教法人の売買について耳にしたことはありますでしょうか?

検索サイトで「宗教法人 売買」と打てば宗教法人を売買仲介するサイトが出てきます。

実際に宗教法人を売買するとはどういう意味なのか?

更には宗教法人売買がおススメ出来ない理由をお伝えします。

お断り

宗教法人売買に関する当ブログの考え方についてお断りしておきます。

まず税金逃れのための売買は反対です。

宗教法人を悪用する目的での売買は本来の目的から逸脱しており宗教を冒涜していると捉えられかねません。

その他にも宗教法人売買は高いリスクが伴います。

この記事はあくまで売買という事実をどのように捉えるかを主眼にしています。

一方で、宗教法人の檀信徒を救うためであったり、墓地使用者を守るためなど利益追求を目的としないものであればやむを得ないものと考えています。

宗教法人が売買される背景

宗教法人が売買の対象になるということは、その宗教法人自体が容易に設立できないことが主な背景にあります。

〔宗教法人設立〕3年必要な理由とは
宗教法人設立には数多のハードルが存在する 宗教法人を作るにはどれだけ時間がかかりますか? という質問を受けたとしたら私は少なくとも3年。と答えます。 この答えに対して「そんなに!?」という反応が素直なところでしょう。 株式会社であれば数日で設立が可能ですし、宗教法人と同じ...

仮に容易に設立ができる制度であれば、恐らく売買の対象にはなってないのではないでしょうか。

少なくとも約3年間活動実績を所轄庁が確認し、この約3年間宗教団体規則通りの運営がなされてようやく設立の認証申請が可能となります。

でも「3年は長くて待てない」というのが率直なところではないでしょうか。

中には「3年を要せずに設立が出来た」という話も聞きますがかなり特殊なケースです。

特殊なケースがさも通常であるかのように情報が流れていることがあり、その情報は注意が必要です。

またご存知の通り、お布施に対する法人税の優遇があることも宗教法人売買の要因の一つとなっています。

法人格を売るという行為は存在しない

地位の変動のこと

まず気を付けたいのが買うという行為について。

株式会社のように株式を購入して支配権を取得、完全子会社にしたり合併させたりといった資本主義的な方法ではありません。

厳密には宗教法人の代表役員や責任役員の地位を交代するということになります。

宗教法人法
(代表役員及び責任役員)
第18条   宗教法人には、三人以上の責任役員を置き、そのうち一人を代表役員とする
 代表役員は、規則に別段の定がなければ、責任役員の互選によつて定める。
 代表役員は、宗教法人を代表し、その事務を総理する。

どの宗教法人にも最低3名は責任役員がおり、その中で1名は代表役員となります。

株式会社の取締役会と少し似ています。

ちなみに宗教法人法では責任役員という機関はありません。

しかし宗教法人として何かしら意思決定する場合は責任役員会議を行うことになります。

よってこれらの地位を金銭の譲渡と引き換えに地位を譲るというのは現実として可能です。

更に禁止する法律もありません。

これを俗に宗教法人売買と呼ばれているのではないでしょうか。

行政は把握している

しかし代表役員が交代するとなるとその旨法務局に登記申請し、所轄庁に届出を行う必要があります。

また年に1回の事務所備付書類写しを都道府県知事に提出する際に責任役員名簿をつけないといけないので行政サイドも人事上の異動は把握することになります。

行政もこれらの人事異動は把握していても一人一人の代表役員について審査するということは難しいでしょう。

よほど不自然な退任・就任でないと指摘できないのが現実かと思います。

しかしこのような売買が社会問題化した場合は何らかの規制ができるかもしれません。

単立宗教法人でないと難しい

宗教法人には3種類あります。

この3種類の中で売買の対象とされるのは単立宗教法人です。

包括宗教法人

文字通り複数の宗教法人を包括、取りまとめている宗教法人になります。

例えば○○宗〇○派といった宗派のことです。

そのため被包括宗教法人に対して人事権をコントロールされているケースが多いです。

例として、代表役員は宗派が認めた住職をもって充てるといったものになります。

その為、僧籍を持たない方は代表役員になれない場合が多いです。

被包括宗教法人

包括宗教法人に属している宗教法人のことをいいます。

多くは私たちの身近にある寺院や神社、教会などです。

包括宗教法人から人事権の関与を受けるケースが多いです。

そのため自由に宗教法人を売買するということはできません。

単立宗教法人

何れの宗派の包括関係がなく単独で存在する宗教法人です。

役員の人事権は独自に持っているため売買の対象になっています。

元々はどこかの宗派に属していて包括関係を解消しているケースが多く、逆に稀ですが単立から被包括宗教法人になるケースもあります。

その場合は所轄庁の認証を得る必要があります。

単立であっても教義上は特定の宗派の考え方を持っているところもあります。

売買の目的は?

売買ということは買う側にも売る側にもメリットがないと成立しません。

どのような動機があって買い、売るのでしょうか。

買い手の目的

自己の宗教的思想と近い宗教法人であれば代表者となって布教活動をしたいというニーズがあります。

他には墓地・納骨堂を経営したいという方が宗教法人を利用するケースがあります。

それは墓地や納骨堂の経営主体は原則として地方公共団体となるわけですが、それ以外になると宗教法人か公益法人しか認められていないからです。

売り手の目的

宗教法人売買には数百万~数千万の資金が動きます。

単立か被包括か、境内地・境内建物を持っているか、墓地や納骨堂を運営しているか、檀信徒の人数、負債状況など総合的に勘案されるようです。

運営が逼迫していてやむを得なく売るということもあります。

また世代交代がうまくいかなかった、布教活動に限界を感じるなど売る側には厳しい状況が背景にあります。

必要悪という側面も

世代交代がうまくいかず宗教法人の担い手がいない場合で墓地や納骨堂を運営していた場合、誰かに託す方がまだよいという考え方もあります。

特に墓地・納骨堂を運営している場合や檀信徒が少なくても存在する場合、放置することで多大な迷惑をかけてしまいます。

混乱を最小限にすることを目的にする必要がある場合は、やむを得ない選択になるかもしれません。

とはいえ宗教的アイデンティティの維持は絶対条件です。

宗教法人の目的を短期間で大幅に変えることは難しい面があり、設立当初の考え方はある程度維持することになります。

宗教法人数は減少傾向

実際に宗教法人を新規で立ち上げることはよほど活動実績がない限り難しいでしょう。

一般的に行政庁によって3年間の活動実績や3年分の収支計算書等をみられるため少なくとも3年は見ておく必要があります。

このことは文部科学省の告示で明確に示されています。

当然ながら3年間で認証されないケースもありますが、その原因は宗教団体規則の通りに運営されていない(予算・決算書類を作成せず議事録も残していない)、境内地や建物の抵当権が外れていない、信者が十分集まっていない等々、宗教法人法が定める要件を満たせていないケースです。

このような背景から、日本における宗教法人数は年々減少していることが挙げられます。

減少している原因は、宗教法人同士の合併、解散などがありますが一番は新規での宗教法人認証が極端に少ないことです。

今後も減少傾向は続くでしょう。

更に、日本では宗教活動そのものは宗教法人でなくてもできます。

海外の一部の国では宗教法人化若しくは国からの認定や許可を得ないと宗教活動そのものができないというケースもあります。

そのため敢えて宗教法人にしなくてもよいという考え方もあるでしょう。

しかし、その場合は法人として財産を持てず宗教団体代表者個人の財産として扱われるなどの不都合はあります。

法人化することのメリットについては以下の記事を読んでみてください

〔宗教法人化〕宗教団体から宗教法人にすることのメリットとは
宗教法人と宗教団体 皆さんの周りにある寺院や教会は殆どが宗教法人です。 意外と初耳な話だと思いますが、表札では「○○寺」と出ていて宗教法人かどうかは外見上分からないことがあります。 しかし実際は宗教法人です。宗教法人の場合、寺院名を名乗る際に宗教法人を付けることは義務とされてい...

宗教法人売買をおススメできない3つの理由

目的相違による活動の齟齬と税の問題

買おうとする側が考えている宗教活動と売ろうとする宗教法人の目的に齟齬があるとそれは、宗教法人法による宗教活動とは言いにくい状況となります。

宗教法人には以下のような目的が登記されていたとします。

例)この法人は、〇〇宗の教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成し、その他この法人の目的達成のための業務及び事業を行うことを目的とする。

ここで〇〇としている箇所は重要です。

宗派によって教義や儀式が違いますので、これを別の宗派で活動していくということはかなり問題があります。

問題がある一つとして固定資産税があります。

本来の宗教目的以外に境内地や境内建物を使用していると固定資産税が課税される可能性が出てきます。

地方税法 (固定資産税の非課税の範囲) 第三百四十八条 抜粋

2 固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。ただし、固定資産を有料で 借り受けた者がこれを次に掲げる固定資産として使用する場合においては、当該固定資産の所有者に課 することができる。

 宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法 人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。)

実際に宗旨宗派不問で納骨堂の募集をしていた寺院が固定資産税を課税されたという事例があります。

〔要申請〕墓地や納骨堂の不動産非課税手続き
墓地・納骨堂は非課税? 墓地や納骨堂でかかる税金を非課税にすることができるってご存知でしたか? 非課税か課税になるかの違いは宗教施設であるかどうかの違いです。 ではどのような税金が非課税となるのか。 その前に、宗教法人は税制上優遇されているという批判を受けるかもしれません...

売買対象となっている宗教法人が実際に境内地や境内建物が存在するかはケースバイケースなところがありますが、新たに境内を設ける場合でも目的と齟齬のある教義や活動内容となれば、登録免許税や不動産取得税などの非課税適用を受けられるのか、仮に受けられても後から課税されることはないのかなど不安な要素があります。

法人税については宗教法人というだけで収益事業でなければ原則課税されません。

しかし、法人目的に沿わない宗教活動の場合は今後どのように対処されるのか不透明です。

宗教法人だから課税の問題は全くない。

と思っていても実際には課税する側は鋭い目で見ていますので、我々が想定しないところから指摘を受ける可能性があります。

今後、目的と違う宗教活動をして得たお布施は課税されるような動きがないとは言い切れません。

宗教法人売買について契約をすることの是非

宗教法人の売買についての取り決めや約束を書類で残しておきたい。

というケースはあるのではないかと思います。

例えば「代表役員を交代する」「責任役員は総入れ替えする」「交代でき次第1000万円を支払う」

そのような条項が契約で認められるかが問題です。

これが問題になる根拠は民法90条の規定です。

民法 (公序良俗)

第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

公序良俗とは社会的に見てよろしくないことのことです。

宗教法人の売買が社会問題になっている今、契約書などでこの約束を行うことは公序良俗違反になり無効となる余地があるのではないでしょうか。

そのため、譲渡する側と譲渡される側との強い信頼関係がなければこの行為は成立しないように思います。

宗教法人売買契約という表現ではなく、境内不動産や実印、印鑑カード、預貯金等の譲渡契約という形でも実質は同じです。

株式会社であれば株式の譲渡契約で会社法が想定する取引ですが、宗教法人の場合は一切想定しておらず社会的に許容されていないことなので、公序良俗に反し契約書の形では裁判沙汰になった場合に無効となる可能性があります。

売買による対価として数千万から億の金銭が動くことを考えると、人間関係が構築されていない中でのやり取りは危険が伴います。

売買に至るまでの過去

売りに出されているということは、後継者がいないという事情は当然あるのですが、冷静に考えれば、宗教法人としてうまくいっているところは後継者は見つかりやすいものです。

後継者が見つかりやすいということは売りに出されることは考えにくいでしょう。

運営自体はうまくいっているのに後継者が見つからないのか、元々うまくいかず結果、後継者が見つからなくなったのかは大きな違いです。

当然、後者の場合も存在しますので注意が必要です。

また、うまくいかなくなった事情の1つとして信者や関係者との人間関係もあります。

売買のときに聞いていなかったことが代表役員に就任してから発覚し、想定外の支出や負担を伴うようなことがあります。

株式会社でもあるのですが簿外債務が発覚し就任したとたん請求をされることもあるでしょう。

決算書には資産と見ていた債権は実体のないものだったり、負債の内容が不透明であったりということもあるかもしれません。

代表役員になるということは、宗教法人の過去をプラス・マイナスどちらか分からないことも含めて引き継ぐということです。

株式会社とその点は重なる点もありますが、宗教法人の場合は開示制度が十分ではないということでより強調される部分かと思います。

収益事業の法人税率は優遇されるのか?

これまで述べた3つの理由を聞いても尚、売買をしたいという方がいらっしゃるかもしれません。

なので敢えてもう一つ付け加えておきます。

宗教法人は公益事業以外の事業、つまり収益事業を行うことは可能です。

更に、公益法人等が行う収益事業は法人税率が優遇されるのは事実です。

しかし、無制限に認められるわけではありません。

宗教法人法第6条には以下の条文があります。

(公益事業その他の事業)
第六条 宗教法人は、公益事業を行うことができる。
2 宗教法人は、その目的に反しない限り、公益事業以外の事業を行うことができる。この場合において、収益を生じたときは、これを当該宗教法人、当該宗教法人を包括する宗教団体又は当該宗教法人が援助する宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない。

つまり、宗教法人の目的に沿わない収益事業を行うことは認められていません。

そのため34業種に当たる事業でも特定宗派の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成するという目的に沿わなければ、中小企業と同じように課税されるか、脱税という結果になるかもしれません。

34業種の説明については↓のページでも解説しています

〔宗教法人の事業〕アイドルや映画事業を始める時に押さえておくべき手続きとは?
宗教法人とアイドル事業 昨今、一部の宗教法人でアイドルや映画を一つの導線として布教活動を行っているという話を聞きます。 宗教法人が所有する境内建物(本堂など)で女性が踊りや歌唱などのパフォーマンスをしたり映画を通して教義を広め理解を深める活動で実際はさほど数は多くはないのですが、やは...

どのような事業でも優遇されるのであれば、皆さん宗教法人でしか事業をしなくなります。

宗教法人に認められる収益事業とは、寺院の場合はペット墓地や納骨堂のような「倉庫業」、境内地の有効活用のための「駐車場業」、宿坊として「旅館業」など。

この場合は優遇税制が適用されますが、宗教法人で宗教活動と全く関係のない事業をすることはご法度です。

また、それを目的にした売買で優遇を受けても後から問題になる可能性があります。

まとめ

まだまだ宗教法人の判例は十分にないために不確定要素もありますが、安全な宗教法人売買など存在しないことを心得ておくべきですし、勧めることはできません。

必要悪として行うのであれば止めませんがリスクが伴います。

そんなはずではなかったということにならないように入口の段階で、別の選択肢を考えることもお勧めします。

一番の選択肢は最初から設立の手続きを計画的に3年間かけて進めること。

売買対象になっている宗教法人は目的も主たる事務所も買い手側にとってミスマッチな部分も多いはずです。

宗教法人売買の検討に1年、2年かけて見定めるぐらいなら、3年かけるつもりで完全にオーダーメイドな法人をゼロから目指すことが最善です。