〔墓地の経営成績〕開示が前提?文化庁が宗教法人の財務諸表を不開示決定

墓地の販売成績は開示が前提か?

お寺でどれだけの墓地が販売されているか。

どれだけの収入と支出があるかなど興味がある方は多いはずです。

採算が取れているのか、運営は厳しいのかなどなど。

このような財務諸表について誰でも見ることができるのでしょうか?

宗教法人は法人税等の税金が免除されていることから、透明性を持つべきだという意見もあると思いますが実際は、誰でも簡単に見ることはできません。

一部の限られた関係者に限定されていますし、その関係者でも一定の場合は閲覧することができません。

簡単に見ることができないということを裏付ける文化庁の対応があります。

信者などの利害関係者でない第三者が文化庁へ、とある宗教法人の財務諸表を情報公開請求した事例です。

昨年の8月に遡りますが『週刊東洋経済』による宗教法人特集が組まれています。

記事の概略は以下のサイトで紹介されていますが、かなり踏み込んだ内容と私は捉えています。

日本の宗教界が、曲がり角に立っている。文化庁の『宗教年鑑』によれば、国内宗教法人の信者数(公称)の総数は過去10年で12%減。信者数の絶対値は減り続けている。それでも、宗教法人は侮れない力を依然として持…

特に『週刊東洋経済』編集部によって特定の宗教法人が文化庁に提出した財務諸表を情報公開請求し非開示決定が出たことに対するところは重要なところです。

作成すべき財務諸表について

財務諸表とは何かというところですが一言で言えば決算書のことで1年を通した経営成績を示すものです。

そして宗教法人法で作成、備付けが義務付けられているのは「財産目録及び収支計算書並びに貸借対照表を作成している場合には貸借対照表」となっておりこれらは信者や利害関係からの閲覧請求があれば一定の条件を満たしたうえで閲覧させなければなりません。

宗教法人法 (財産目録等の作成、備付け、閲覧及び提出)

第二十五条宗教法人は、その設立(合併に因る設立を含む。)の時に財産目録を、毎会計年度終了後三月以内に財産目録及び収支計算書を作成しなければならない。
2 宗教法人の事務所には、常に次に掲げる書類及び帳簿を備えなければならない。
一 規則及び認証書
二 役員名簿
三 財産目録及び収支計算書並びに貸借対照表を作成している場合には貸借対照表
四 境内建物(財産目録に記載されているものを除く。)に関する書類
五 責任役員その他規則で定める機関の議事に関する書類及び事務処理簿
六 第六条の規定による事業を行う場合には、その事業に関する書類
さらに、毎会計年度終了後4ケ月以内に所轄庁に対して財務諸表を含めた資料の写しを提出することになっています。

宗教法人法 (財産目録等の作成、備付け、閲覧及び提出)

第二十五条 
宗教法人は、毎会計年度終了後四月以内に、第二項の規定により当該宗教法人の事務所に備えられた同項第二号から第四号まで及び第六号に掲げる書類の写しを所轄庁に提出しなければならない。
もちろん、不活動法人の場合は宗教活動を始め法人事務を行っていないこともあり、作成していない宗教法人も一定数あると見られますが活動している法人は作成しているはずです。

財務諸表のグローマー拒否 その妥当性とは?

東洋経済さんが情報公開請求をされたのは、宗教法人が文化庁に提出されている財務諸表が対象となっています。

文化庁がこの財務諸表を受け取った時点で行政文書となります。

行政文書というのは多くは国民に公開されるべきものですが中には大人の事情で公開が認められないものもあります。

文化庁に情報公開請求されているわけですので、全国的に境内地や被包括宗教法人が存在する単立又は包括宗教法人の財務諸表を請求されたものと考えられます。

この請求を文化庁は文書の存否を明らかにせずに非公開決定を行いました。

このことを専門用語ですがグローマー拒否と呼ばれています。

グローマー拒否の意義

行政文書の存否自体を明らかにすることによって、不開示情報の規定によって保護しようとしているプライバシー等の利益が損なわれる場合に、当該文書の存否自体を明確にしないで拒否できるという制度である。日本では情報公開法で8条に規定されている。

これが認められるのは、例えばある人物が国立病院に入院していたときのカルテの開示請求があった場合、当該行政文書はあるが情報公開法5条1号(個人情報に係る情報の不開示)により不開示と回答したのでは、当該人物に入院歴があることが明らかとなってしまいプライバシーが侵害されてしまうからである。(wikipediaより)

グローマー拒否という対応を取ったことには妥当性があると考えられます。

何故なら、不開示(財務諸表はあるけど開示はできません)と決定した場合に該当する宗教法人が財務諸表を文化庁に提出したことが明確になるということになります。

財務諸表を作成して行政に提出するのは宗教法人法が求めていることではないか?

という指摘を受けるかもしれません。

しかし、財務諸表を提出できるということを裏返せば、宗教活動を行っているということを証明することになります。

宗教活動をする又はしないという判断は憲法で保障されています。

日本国憲法

第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

○2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

○3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

「宗教法人は宗教活動をして当たり前だろう」という意見があるのは分かるのですが、現実に活動ができない法人も多数存在します。

そのことを個別に行政が公開するということは間接的に権力を行使していると見られかねないため、グローマ拒否は妥当ではないかと考えます。

また請求対象となった宗教法人を公開することで批判されるような事態になり宗教活動に影響が出ることが予想されることもあり、その場合であれば明らかに開示すべきでない状況になります。

そもそも法律上公開が前提とされていない

宗教法人法の場合

このグローマ拒否のもう一つの根拠になるのが宗教法人法25条。特に5項は重要です。

所轄庁は宗教法人から受け取った財務諸表の取り扱いには信教の自由を妨げることがないように特に留意が必要という条文があります。

宗教法人法 25条

5 所轄庁は、前項の規定により提出された書類を取り扱う場合においては、宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない。

この「留意」については情報公開に応じるかどうかも含まれているか定かではないのですが、この条文があることでかなり公開のハードルが高くなっていると考えられます。

また、仮にこのような条文がなかったとしても、公開が前提とされているものであれば株式会社のように決算公告制度を作るべきところ、宗教法人法にはそのような制度がありません。

もし、この制度が問題であるというのであれば法改正を含めた宗教法人制度改革を行っていただくしかないのですが現実には難しい面が大きいのではないでしょうか。

墓地、埋葬等に関する法律の場合

墓地、埋葬等に関する法律15条にあっても帳簿作成の義務はあっても公開を前提とした運用ではありません。

墓地、埋葬等に関する法律

15条 墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、省令の定めるところにより、図面、帳簿又は書類等を備えなければならない。

2 前項の管理者は、墓地使用者、焼骨収蔵委託者、火葬を求めた者その他死者に関係ある者の請求があつたときは、前項に規定する図面、帳簿又は書類等の閲覧を拒んではならない。

「墓地使用者、焼骨収蔵委託者、火葬を求めた者その他死者に関係ある者」に限定されています。

墓地、埋葬等に関する法律における帳簿というのは行政に提出することが前提とされていないので行政文書になることはありませんが、一部にしか閲覧を認めていないのは宗教法人法と共通するところです。

どんぶり勘定はよろしくない

とは言っても、公開が前提とはされてないことに胡坐をかき続けるのはよくはありません。

東洋経済さんの記事の中で税理士法人の意見が出ています。

税理士法人関係者は、「非課税の宗教行為と課税対象の収益事業の財布も分けておらず、まさにどんぶり勘定。これで通用するとは信じられなかった」と振り返る。

非課税事業と収益事業を分けずに会計をしているというのは、いくら非公開が前提とは言え良いとは言えません。

どんぶり勘定にならないようにどうすればよいか?

会計専門家(税理士や規模によっては会計士)に依頼
適正な会計を学ぶ
財務諸表の内容について責任役員のみならず総代会にも諮問する

基本的なところですがこれらは疑念を持たれないために必要なことだと思います。

また、そのような問題点を所轄庁が啓蒙し続けないといけないとも思います。

宗教法人の性善説が揺らぐことになれば一番、負担になるのは宗教法人です。

一部の宗教法人ではインターネット上で財務諸表を公開しているところがあります。

そこまで必要なのかはさて置き、このような取り組みをおこなうことは活動内容の信頼性や透明性を担保するものとして宗教法人の利益になることもあると思います。